「誤薬をしてしまった。もう看護師を辞めたい」 「患者さんに申し訳なくて、明日から病棟に行くのが怖い」
誤薬やインシデントのあと、そんなふうに自分を責め続けていませんか。
看護師は患者さんの命を預かる仕事です。だからこそ、ミスをしたときのショックは大きく、「自分には向いていない」と感じてしまうのは自然なことです。
この記事では、看護師が誤薬やアクシデントのあとに「辞めたい」と感じたときに、最初にすること、仕組みの視点での振り返り方、立ち直り方、相談先、そして続けるか辞めるかの判断のしかたをまとめました。
先に結論を書くと、ひとつのミスだけで「看護師を辞める」と決める必要はありません。まずは報告と患者さんの安全を優先し、気持ちが少し落ち着いてから、原因を「個人」ではなく「仕組み」の視点で振り返ってみてください。そのうえで、つらさが続くなら、職場や働き方を変えることも選択肢のひとつです。
看護師が誤薬のあとに「辞めたい」と感じるのは自然なこと
誤薬(薬の種類・量・時間・投与経路・患者さんを間違えて与薬すること)は、看護師にとってとても重い出来事です。
ミスのあとには、次のような気持ちが出てきやすくなります。
- 患者さんやご家族に申し訳ない
- 先輩や上司、医師にどう思われているか怖い
- また同じミスをするのではと不安で、業務が手につかない
- 「自分は看護師に向いていない」と感じる
こうした気持ちは、責任感があるからこそ生まれるものです。ミスをした医療者が強い精神的なダメージを受けることは「セカンドビクティム(第二の被害者)」とも呼ばれ、医療現場で知られている考え方です。
わたしが夜勤で感じていた危機感
わたしは約14年、同じ病院で看護師として働きました。病棟時代は3交代制で、多いときは月8回の夜勤がありました。
夜勤では、仮眠をとっても異常な眠気に襲われることがありました。命を預かる立場として、その眠気に危機感を抱いていたのを覚えています。
疲れや眠気は、どれだけ気をつけていても注意力に影響します。ミスの背景には、夜勤の疲れや業務量など、本人の努力だけではどうにもならない勤務の状況が関わっていることもあります。
誤薬・インシデントのあとに最初にすること
気持ちの整理より先に、まずやるべきことがあります。手順は職場のマニュアルやルールに従ってください。ここでは一般的な流れを紹介します。
| 順番 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 患者さんの状態を確認する | バイタルサインや症状を観察し、安全を確保する |
| 2 | すぐに報告する | リーダー・上司・医師に、事実をそのまま伝える。指示を受けて対応する |
| 3 | 指示に沿って観察・処置を続ける | 自己判断で対応を決めない |
| 4 | 記録を残す | 時間・薬剤名・量・患者さんの状態などを事実ベースで書く |
| 5 | インシデントレポートを書く | 職場のルールに沿って提出する |
「バレるのが怖い」「隠したい」と思ったら
ミスのあと、「誰にも言わなければ分からないかもしれない」と思ってしまうことがあるかもしれません。
ただ、報告が遅れると、患者さんへの対応も遅れてしまいます。誤薬は、薬によっては時間がたってから影響が出ることもあります。怖くても、まずは報告することが患者さんを守ることにつながります。
すでに報告できずに時間がたってしまった場合も、今から上司に申し出てください。
「クビになるのでは」と不安なとき
誤薬のあと、「処分されるのでは」「法的な責任を問われるのでは」と不安になる人もいます。
ただ、処分や法的責任の有無は、出来事の内容や職場の規定などによって変わるため、一概には言えません。不安なときは、ひとりで調べて思い詰めるより、上司や医療安全管理者、事務部門に確認してください。職場とのあいだでトラブルになりそうなときは、各都道府県労働局や労働基準監督署内にある「総合労働相談コーナー」で、無料・予約不要で相談できます。法律の専門的な判断が必要な場合は、弁護士などの専門家に相談しましょう。
※出典:厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
振り返りは「個人」ではなく「仕組み」の視点で
インシデントレポートは、反省文ではありません。同じミスを繰り返さないための記録です。
厚生労働省の医療安全対策検討会議の報告書でも、医療は「人」「物」「組織」などを含めたシステムで提供されているとしたうえで、「人は誤りを犯す」ことを前提にした組織的な対策の必要性が述べられています。また、事故の予防のためには、個人の責任追及よりも、原因を究明して防止策を立てることが重要だとされています。
※出典:厚生労働省 医療安全対策検討会議「医療安全推進総合対策~医療事故を未然に防止するために~」(平成14年4月)
振り返りで見るポイント
原因を考えるときは、「自分の不注意」だけで終わらせず、次のような視点で具体的に見てみてください。
| 視点 | 確認すること |
|---|---|
| 指示・情報 | 医師の指示は分かりやすかったか。指示の変更は伝わっていたか |
| 薬剤 | 名前や見た目が似た薬はなかったか。保管場所は分かりやすかったか |
| 確認の手順 | ダブルチェックや名前の確認は、手順どおりにできる状況だったか |
| 業務量・時間 | 時間に追われていなかったか。一人で多くの業務を抱えていなかったか |
| 環境 | 途中で声をかけられるなど、作業が中断されなかったか |
| 体調・勤務 | 夜勤明けや連勤で、疲れや眠気が強くなかったか |
マニュアルどおりに確認できない環境だったなら、それは個人だけでなく、職場全体で改善を検討すべき問題です。振り返りの結果は、再発防止の対策として職場で共有しましょう。
インシデントから立ち直れないときの立ち直り方
報告と振り返りが終わっても、気持ちがすぐに切り替わるとは限りません。立ち直るためのヒントを紹介します。
1. 一人で抱え込まず、気持ちを話す
信頼できる先輩や同期、家族に、今の気持ちを話してみてください。話すことで、頭の中が少し整理されます。患者さんの個人情報は話さないように注意しましょう。
わたしは看護師を辞めるかどうか、約7〜8年、誰にも相談せずにひとりで悩み続けました。悩みの内容は違いますが、ひとりで抱え込むと、考えが同じところを回り続けてしまいがちです。
2. 「ミスをしたこと」と「自分の価値」を分けて考える
「ミスをした」という事実と、「自分はだめな看護師だ」という評価は別のものです。事実は振り返りで向き合い、自分の価値まで否定しないようにしてください。
3. 再発防止の対策を、自分のお守りにする
具体的な対策を決めておくと、「次は防げる」という安心につながります。
- 与薬前に、患者さんの名前・薬剤名・量・時間・経路を声に出して確認する
- 作業中に声をかけられたら、いったん手を止めてから対応する
- 不安な指示は、その場で医師や先輩に確認する
- 時間が決まった与薬は、アラームやチェック表を使う
4. 休む・受診する
眠れない、食欲がない、出勤前に涙が出るなどの状態が続くときは、無理をせず休んでください。気分の落ち込みや強い自責が続く場合は、心療内科や精神科などの医療機関を受診しましょう。職場に産業医がいる場合は、産業医に相談するのもひとつの方法です。
心身の疲れについては、こちらの記事でも整理しています。
関連記事:看護師の仕事に疲れたときの対処法|原因別の休み方と働き方の変え方
誤薬・アクシデントのあとに頼れる相談先
相談先は、職場の中と外の両方にあります。
| 相談先 | 相談できること |
|---|---|
| 先輩・同期 | 気持ちの吐き出し、業務の進め方 |
| 師長・上司 | 業務の調整、配置や勤務についての相談 |
| 医療安全管理者 | インシデントの振り返り、再発防止の対策 |
| 産業医・職場の相談窓口 | 心身の不調、働き方の相談 |
| 医療機関(心療内科・精神科など) | 眠れない、落ち込みが続くなどの不調 |
| こころの耳(厚生労働省) | 働く人のメンタルヘルスについて、電話・SNS・メールで相談 |
| 総合労働相談コーナー | 処分や職場とのトラブルなど、労働問題の相談 |
「こころの耳」は、厚生労働省が運営する働く人のメンタルヘルスのポータルサイトです。電話・SNS・メールの相談窓口が案内されており、匿名・無料で利用できます。
※出典:厚生労働省「こころの耳」
看護師を続けるか辞めるか、判断のしかた
ミスの直後は、気持ちが大きく揺れている状態です。続けるか辞めるかの判断は、少し時間をおいてからでも遅くありません。
判断の前に確認したいこと
次の質問に答えてみると、自分の気持ちが整理しやすくなります。
- 辞めたい理由は「今回のミス」だけか、前から積み重なっていたものがあるか
- 看護の仕事そのものがつらいのか、今の職場の環境がつらいのか
- 業務量や人員不足、夜勤の多さなど、ミスが起きやすい状況が続いていないか
- 上司や同僚は、責めるのではなく一緒に改善を考えてくれるか
- 心身の不調が続いていないか
「仕事」が合わないのか、「職場」が合わないのかを見分ける方法は、こちらの記事で詳しくまとめています。
関連記事:看護師に向いてないと感じたら|「仕事」か「職場」かを見分けて次の一手を決める
状況別の考え方
| 状況 | 考えられる選択肢 |
|---|---|
| ミスの直後で、気持ちが落ち着いていない | まずは休む・相談する。大きな決断は少し先にする |
| 職場が一緒に改善してくれる | 再発防止の対策を続けながら、今の職場で様子を見る |
| 人員不足や業務量の多さが変わらない | 部署異動や、ほかの病院・クリニックなどへの転職を検討する |
| 夜勤の疲れや眠気がつらい | 日勤のみ・夜勤なしの働き方を検討する |
| 看護の仕事そのものを続けるのがつらい | 看護師以外の仕事も含めて、選択肢を広げて考える |
職場や働き方を変えるのも選択肢
ミスをきっかけに、自分の働き方を見直す人もいます。環境を変えることは「逃げ」ではありません。
ただ、転職をするなら、勢いで決めずに、次の職場で同じ悩みをくり返さないよう準備しておくことが大切です。
関連記事:看護師が転職で失敗しないために|よくある失敗例と転職前に確認したいこと
看護師を辞めるかどうか全体の判断軸は、こちらにまとめています。
関連記事:看護師を辞めたい人へ|14年働いた元看護師が「続ける・辞める」の判断軸を解説
よくある質問
誤薬を1回しただけで辞めたいと思うのは甘えですか?
甘えではありません。患者さんの命に関わる仕事だからこそ、ミスのショックが大きいのは自然なことです。ただ、気持ちが揺れている直後に大きな決断をすると、あとで迷うこともあります。まずは休んで、誰かに相談してから考えてみてください。
インシデントが続いて、立ち直れません。どうすればいいですか?
インシデントが続くときは、個人の注意力だけでなく、業務量や人員、手順などの仕組みに原因があることも考えられます。上司や医療安全管理者に、業務の負担も含めて相談してみてください。眠れない・落ち込みが続くなどの不調があれば、医療機関の受診も検討しましょう。
誤薬で処分されたり、責任を問われたりすることはありますか?
出来事の内容や職場の規定などによって変わるため、一概には言えません。不安なときは、職場の上司や事務部門に確認し、必要に応じて総合労働相談コーナーや弁護士などの専門家に相談してください。
ミスのあと、職場に行くのが怖いです。
怖いと感じるのは自然なことです。無理に平気なふりをする必要はありません。信頼できる人に気持ちを話したり、上司に業務の調整を相談したりしてみてください。出勤できないほどつらいときは、休むことも大切です。
まとめ
看護師が誤薬やインシデント・アクシデントのあとに「辞めたい」と感じるのは、責任感があるからこそです。
- まずは職場のルールに従って、報告と患者さんの安全確保を優先する
- 振り返りは「個人の責任」ではなく「仕組み」の視点で行う
- 一人で抱え込まず、先輩・上司・医療安全管理者・産業医などに相談する
- 強い自責や不調が続くときは、休む・受診する
- 続けるか辞めるかは、気持ちが落ち着いてから判断する
ひとつのミスで、看護師としての自分のすべてが決まるわけではありません。それでもつらさが続くなら、職場や働き方を変えることも、自分を守るための選択肢です。