「病院以外で、看護師の資格を活かせる仕事はないかな」 「夜勤がなくて、土日に休める働き方がしたい」
そう考えて調べていくと、「企業看護師」という働き方に行き当たる人は多いのではないでしょうか。
企業看護師は、一般企業の健康管理室や医務室などで、社員の健康を支える看護師です。夜勤がなく、カレンダー通りに休める職場が多い一方で、求人の数が少なく、病院とは求められるスキルも違います。
この記事では、新卒から約14年病院で働き、今は一般企業で働いている元看護師のわたしが、企業看護師について次のことをまとめました。
- 企業看護師とは何か、産業看護師・産業保健師との違い
- 仕事内容と1日の流れ
- 年収・働き方のメリットとデメリット
- 企業看護師になるには(必要な資格・経験・求人の探し方)
- 向いている人・向いていない人
法律や制度の内容は、厚生労働省や学会の公式情報で確認できたことだけを書いています。給与や待遇は企業によって大きく違うため、応募の際は必ず求人票や面接で確かめてください。
企業看護師とは|一般企業で社員の健康を支える看護師
企業看護師とは、病院やクリニックではなく、一般企業に雇用されて、そこで働く社員の健康管理を担う看護師のことです。働く場所は、本社や工場、事業所の中にある健康管理室・医務室などです。
病院の看護師が「病気やけがをした患者さん」を看るのに対し、企業看護師が関わるのは「基本的には元気に働いている社員」です。病気になってから治すのではなく、病気やメンタルヘルス不調を防ぐことが仕事の中心になります。
産業看護師・産業保健師・企業保健師との違い
企業看護師は、求人や記事によって「産業看護師」「産業保健師」「企業保健師」などと呼ばれることもあります。厳密に分かれた資格名ではなく、主に持っている免許と呼び方の違いです。
| 呼び方 | 必要な免許 | 特徴 |
|---|---|---|
| 企業看護師 | 看護師 | 一般企業で働く看護師を広く指す呼び方 |
| 産業看護師 | 看護師 | 企業看護師とほぼ同じ意味。「産業保健」の分野で働く看護師という意味合いが強い |
| 産業保健師・企業保健師 | 保健師(+看護師) | 保健指導や健康施策の企画など、より保健分野の専門性を求められる求人が多い |
求人では「保健師の資格がある人」を条件にしている企業もあれば、「看護師免許があれば応募できる」企業もあります。応募できるかどうかは、求人ごとの応募条件を見て判断しましょう。
企業看護師がいる会社といない会社がある理由
労働安全衛生法では、常時50人以上の労働者を使用する事業場に、産業医や衛生管理者を選任することが義務づけられています。一方で、看護師や保健師を置くことは法律上の義務ではありません。
そのため企業看護師がいるのは、社員の健康管理に力を入れたい会社や、社員数が多い大企業・工場などが中心です。1つの事業場で採用されるのは1人〜数人というケースが多く、これが「求人が少ない」と言われる理由の一つです。
企業看護師の仕事内容
企業看護師の仕事は、会社の規模や業種、ほかに産業医・保健師が何人いるかによって変わります。代表的なものは次のとおりです。
| 仕事 | 主な内容 |
|---|---|
| 健康診断の運営と事後フォロー | 定期健康診断の日程調整、結果の管理、再検査が必要な社員への受診のすすめ |
| 健康相談・保健指導 | 体調や生活習慣についての相談対応、産業医面談の調整 |
| メンタルヘルス対策 | ストレスチェックの運営補助、不調のある社員の相談対応、休職・復職の支援 |
| けが・体調不良への対応 | 医務室での応急処置、必要に応じて医療機関への受診をすすめる |
| 健康教育・健康づくり | 社内研修や健康イベントの企画、社内向けの健康情報の発信 |
| 衛生委員会などへの参加 | 職場の健康課題の共有、資料作成、産業医・人事との連携 |
病棟と大きく違うのは、注射や点滴などの医療処置はほとんどないことです。そのかわりに、パソコンでのデータ管理、メールや社内チャットでのやり取り、資料作成といったデスクワークの割合が大きくなります。
ストレスチェックとメンタルヘルス対応は重要度が増している
ストレスチェックは、労働安全衛生法にもとづいて年1回実施されるもので、これまでは常時50人以上の事業場に実施が義務づけられていました。2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、50人未満の事業場にも実施が義務化されることになっています(施行は公布後3年以内に政令で定める日)。
ストレスチェックの実施者になれるのは、医師・保健師のほか、所定の研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師です。メンタルヘルス対応は、企業看護師の仕事の中でも存在感が大きくなっている分野といえます。
参考:東京労働局「50人未満の事業場の皆様へ ストレスチェックを実施しましょう」(PDF)
企業看護師の1日の流れ(例)
あくまで一例ですが、本社の健康管理室で働く場合の1日は、次のようなイメージです。
| 時間 | 仕事の例 |
|---|---|
| 9:00 | 出社、メール・チャットの確認、当日の面談予定の確認 |
| 9:30 | 健康診断結果の入力・確認、再検査が必要な社員の抽出 |
| 11:00 | 健康相談の対応(体調不良、生活習慣の相談など) |
| 12:00 | 昼休憩 |
| 13:00 | 産業医面談の同席・記録 |
| 14:30 | 休職中の社員の復職に向けた人事・上司との打ち合わせ |
| 16:00 | 社内向けの健康情報や研修資料の作成 |
| 17:30 | 退勤 |
工場など、けがや急な体調不良が起こりやすい職場では、医務室での対応の比重が大きくなります。応募する前に、どの業務が中心なのかを求人票や面接で確認しておくと、入社後のギャップを減らせます。
企業で働く看護師のそのほかの仕事
「企業で働く看護師」というと、健康管理室の仕事以外にも、看護師の経験を活かせる企業の職種があります。求人サイトで「企業」の条件で探すと、次のような求人も多く出てきます。
| 職種 | 主な仕事 | 特徴 |
|---|---|---|
| 治験コーディネーター(CRC) | 治験に参加する患者さんのサポートや、医師・製薬会社との調整 | 医療機関に出向いて働くことが多い。未経験から挑戦できる求人もある |
| 臨床開発モニター(CRA) | 治験が計画通りに行われているかを確認する | 製薬会社やCROで働く。出張や書類業務が多い |
| クリニカルスペシャリスト | 医療機器の使い方を医療者に説明・サポートする | 手術室やICUなどの経験が活かせることがある |
| 電話相談・コールセンター | 健康相談ダイヤルなどで、電話やオンラインで相談に答える | 在宅勤務の求人もある |
いずれも看護師の知識が強みになる仕事ですが、健康管理室で働く企業看護師とは、仕事内容も求められるスキルも違います。「企業で働きたい」と思ったら、まずはどの仕事に興味があるのかを分けて考えるのがおすすめです。
関連記事:看護師以外の仕事一覧|資格を活かす仕事・活かさない仕事と選び方
企業看護師の年収と待遇
企業看護師の給与は、勤務先の企業の給与体系で決まります。病院のように看護師向けの給与表があるわけではないため、同じ「企業看護師」でも会社によって差が大きいのが特徴です。
年収を考えるときに押さえておきたいのは、次の2点です。
- 夜勤手当がなくなる:病棟で夜勤をしていた人は、基本給が同じくらいでも年収が下がることがあります
- 賞与や福利厚生は企業によって大きく違う:大手企業では、住宅手当や退職金制度などが充実していることもあります
「夜勤をやめると年収はどのくらい変わるのか」は、企業看護師に限らず、日勤のみの働き方を考えるときに避けて通れないポイントです。今の給与明細で夜勤手当がいくらになっているかを確認しておくと、求人を比べやすくなります。
関連記事:看護師が夜勤なしで働くと年収はどう変わる?夜勤手当の差と日勤のみの職場
企業看護師として働くメリット・デメリット
メリット
- 夜勤がなく、生活リズムが整いやすい:日勤のみで、土日祝日が休みの職場が多いです
- 子育てや家庭と両立しやすい:勤務時間が読みやすく、予定を立てやすくなります
- 命に直結する緊張感が少ない:急変対応や医療事故への不安から離れられます
- 予防の視点で人と関われる:社員の健康を長い目で支える仕事にやりがいを感じる人もいます
- ビジネススキルが身につく:パソコンや資料作成、社内調整の経験は、ほかの仕事にもつながります
デメリット
- 求人が少なく、競争率が高くなりやすい:1社あたりの採用人数が少なく、欠員が出たときだけ募集されることも多いです
- 年収が下がることがある:夜勤手当がなくなる分、病棟勤務より少なくなるケースがあります
- 相談できる看護職が社内に少ない:看護師が1人だけの職場では、判断を一人で背負う場面もあります
- 臨床の技術から離れる:医療処置の機会がほとんどないため、病院に戻るときに不安を感じやすくなります
- 病院とは違う働き方に慣れる必要がある:ビジネスマナーやパソコンスキル、社内のルールに合わせることが求められます
夜勤や子育てとの両立に悩んでいる人にとっては、メリットの大きい働き方です。ただ、「病院を辞めたい」という気持ちだけで選ぶと、仕事内容の違いに戸惑うことがあります。デメリットも知ったうえで検討しましょう。
関連記事:看護師が子育てと両立する方法|使える制度と働き方の選び方を元看護師が解説
企業看護師になるのは難しい?
企業看護師は人気のある働き方ですが、「なるのが難しい」と言われることも少なくありません。主な理由は次のとおりです。
- 看護師や保健師の配置が法律上の義務ではなく、そもそも求人を出す企業が限られる
- 1つの事業場で採用されるのが1人〜数人と少ない
- 欠員が出たときだけ募集することが多く、求人の出るタイミングが読みにくい
- 保健師資格や企業での勤務経験がある人と比べられることがある
一方で、看護師免許だけで応募できる求人や、企業での経験がない人を受け入れる求人もあります。条件に合う求人が出たときにすぐ動けるよう、情報を集めながら、応募の準備を先に進めておくことが大切です。
企業看護師になるには|必要な資格・経験と転職の進め方
必要な資格:看護師免許があれば応募できる求人もある
企業看護師として働くために、看護師免許のほかに必須の資格はありません。ただし、求人によっては次のような条件がついていることがあります。
- 保健師免許を持っていること(「産業保健師」の求人に多い)
- 臨床経験が一定年数以上あること
- 基本的なパソコン操作(Word・Excel・メールなど)ができること
あると有利な資格・スキル
| 資格・スキル | 企業看護師の仕事との関係 |
|---|---|
| 保健師 | 応募できる求人の幅が広がる。保健師免許があれば、試験を受けずに第一種衛生管理者の免許を申請できる |
| 衛生管理者 | 職場の衛生管理を担う国家資格。会社にとって選任が必要な資格のため、評価されることがある |
| 産業保健看護専門家制度(日本産業衛生学会) | 産業保健看護の知識を認定する学会の制度。看護師向けの登録者認定試験もある |
| メンタルヘルス・相談の知識 | ストレスチェックや復職支援など、メンタルヘルス対応の場面で活きる |
| パソコンスキル | 健診データの管理や資料作成など、日々の業務で必ず使う |
資格は「取っておけば有利」という面もありますが、まずは応募したい求人の条件を見てから、必要なものを選ぶほうが効率的です。
関連記事:看護師におすすめの資格|続ける人向け・看護師以外も考える人向けに分けて紹介
活かせる経験
臨床経験の中でも、企業看護師の仕事で特に活かしやすいのは次のような経験です。
- 健診センターや外来での経験(健康診断・保健指導の流れがわかる)
- 精神科や心療内科での経験(メンタルヘルス対応に活かせる)
- 救急や病棟での急変対応の経験(医務室での初期対応に活かせる)
- 患者さんや家族への説明、多職種との調整の経験
どの診療科の経験でも、「相手の状態をアセスメントして、必要な支援につなぐ力」は企業看護師の仕事に共通して求められます。わたし自身、今は看護とは違う仕事をしていますが、看護師時代のアセスメント力は課題を分析するときに、段取り力は仕事を進めるときに役立っていると感じます。
求人の探し方
企業看護師の求人は数が少ないため、ひとつの方法だけに頼らず、複数の探し方を組み合わせるのがおすすめです。
- 看護師向けの転職サイトで「企業」「一般企業」の条件で探す:健康管理室のほか、CRCや電話相談などの求人もまとめて見られます
- 転職エージェントに相談する:一般には公開されていない求人を紹介してもらえることがあります
- 企業の採用ページを定期的に確認する:興味のある企業がある場合は、直接募集されることもあります
- 一般向けの転職サイトも見る:「産業看護師」「保健師」などのキーワードで、看護師専門のサイトにない求人が見つかることもあります
転職サイトやエージェントには、メリットだけでなく注意点もあります。使う前に仕組みを知っておくと、自分のペースで転職を進めやすくなります。
関連記事:看護師の転職サイトは使わない方がいい?言われる理由と仕組み・上手な使い方
応募書類・面接で気をつけたいこと
企業の選考では、病院の採用とは見られるポイントが少し違います。
- 「なぜ病院ではなく企業なのか」を前向きに説明する:「夜勤がつらいから」だけでなく、予防や働く人の健康支援に関心がある理由を伝えましょう
- 職務経歴書は企業向けに書き直す:病棟の業務を並べるだけでなく、調整・指導・データ管理など、企業でも活かせる経験を具体的に書きます
- ビジネスマナーを意識する:メールの文面や面接での受け答えも評価の対象になります
関連記事:看護師の転職の志望動機の書き方|職場別の例文と履歴書・面接で伝えるコツ
企業看護師に向いている人・向いていない人
向いている人
- 病気の治療よりも、予防や健康づくりに関心がある人
- 相手の話をじっくり聞き、本人が自分で動けるよう支えるのが得意な人
- パソコン作業や資料作成に抵抗がない人
- 人事や上司など、医療職以外の人と調整しながら仕事を進められる人
- 一人でも状況を判断し、必要なときに産業医や医療機関につなげられる人
向いていない人
- 医療処置や看護技術を磨き続けたい人
- 急性期の現場で、テンポよく動くことにやりがいを感じる人
- デスクワーク中心の働き方が苦手な人
- 看護師の仲間に相談しながら働きたい人
「向いていないかも」と感じた項目があっても、すぐに諦める必要はありません。自分にとって何がいちばん大切なのか(夜勤がないこと、収入、技術、やりがいなど)を整理すると、企業看護師が合うかどうかを判断しやすくなります。
関連記事:看護師に向いてないと感じたら|「仕事」か「職場」かを見分けて次の一手を決める
企業看護師への応募前チェックリスト
応募する前に、次の点を確認しておくと、入社後のギャップを減らせます。
- ☐ 健康管理室の看護職は何人いるか(1人体制かどうか)
- ☐ 産業医は常勤か、嘱託(月数回の訪問など)か
- ☐ 仕事の中心は、健康診断・メンタルヘルス対応・医務室対応のどれか
- ☐ 雇用形態(正社員・契約社員・派遣)と、契約期間・更新の条件
- ☐ 年収の見込み(賞与・手当を含めて、今の年収と比べたか)
- ☐ 転勤や出張の有無
- ☐ 研修や、相談できる先輩・上司がいるか
特に、看護職が1人だけの職場では、判断に迷ったときに誰に相談できるかが大切です。面接で質問しておくと安心です。
関連記事:看護師が転職で失敗しないために|よくある失敗例と転職前に確認したいこと
よくある質問
Q. 企業看護師と産業看護師の違いは何ですか? A. ほぼ同じ意味で使われることがほとんどです。どちらも一般企業で社員の健康管理を担う看護師を指し、正式な資格名ではありません。保健師免許を持って同じ分野で働く場合は「産業保健師」と呼ばれることが多いです。
Q. 企業看護師になるのに保健師の資格は必要ですか? A. 必須ではありません。看護師免許で応募できる求人もあります。ただし、保健師免許を条件にしている求人もあるため、保健師の資格があると応募できる求人の幅が広がります。
Q. 企業看護師は何年目からなれますか? A. 法律で決まった年数はありません。求人ごとに「臨床経験◯年以上」などの条件が設けられていることが多いので、応募したい求人の条件を確認してください。
Q. 企業看護師の年収は病院より下がりますか? A. 人によって違います。夜勤をしていた人は夜勤手当がなくなる分、年収が下がることがあります。一方で、賞与や手当が充実している企業もあるため、求人票で年収の内訳を確認して比べるのがおすすめです。
Q. 企業看護師になったら、病院に戻れなくなりますか? A. 戻れなくなるわけではありません。ただし、医療処置の機会がほとんどないため、技術面で不安を感じることはあります。将来病院に戻る可能性があるなら、ブランクの期間や、復職支援の研修があるかも頭に入れておくと安心です。
まとめ
- 企業看護師は、一般企業で社員の健康管理を担う看護師。産業看護師とほぼ同じ意味で使われる
- 仕事の中心は、健康診断の事後フォロー、健康相談、メンタルヘルス対応などの「予防」
- 夜勤がなく、土日休みの職場が多い一方で、求人が少なく、年収が下がることもある
- 看護師免許で応募できる求人もあるが、保健師資格やパソコンスキルがあると有利
- 求人は転職サイト・エージェント・企業の採用ページなど、複数の方法で探すのがおすすめ
企業看護師は、看護師の資格と経験を活かしながら、病院とは違う働き方ができる選択肢です。「夜勤から離れたい」「予防の分野で働きたい」と感じているなら、まずは求人を見て、どんな仕事があるのかを知るところから始めてみてください。
病院以外の働き方や、看護師以外の仕事も含めて考えたい人は、次の記事も参考にしてみてください。
